きみと出逢った今 みりん
清麿が風邪を引いた。
季節の変わり目だった事と、魔物との戦いで体が疲弊していた事など、悪条件が重なっての当然の結果だった。
何度見ても38.9度を表示している体温計を見つめ、清麿は大袈裟に溜息を吐いた。
最近は学校にもちゃんと行くようになって、クラスの友人達とも有意義だと思える時間を過ごせるようになった為、週初めに体調を崩してしまった事は何だか酷く悔しく思えた。
「じゃあ、お母さん仕事に行ってくるけど、午後になっても熱が下がらないようならタクシー呼んで病院行って来なさいね」
忙しく家を後にする母親に生返事をし、怠い体をベッドに沈める。
氷水で濡らしたタオルを額に置き、ぼうっと天井を眺めていると、不意に布団の端を軽く引っ張られた。
見ると、すぐ横でガッシュが心配そうな表情をして立っている。
クリクリとした大きな金色の眼は、今にも泣き出しそうに揺れていた。
「清麿…大丈夫か?」
弱々しい声音に、清麿は不安を取り除いてやろうと精一杯の笑顔をガッシュに向けた。
いつもよりも重く感じる腕を上げ、サラサラの金髪を優しく梳いてやる。
「大丈夫だ。ただの風邪だから…うつったら面倒だから、ウマゴンと公園にでも行って来いよ」
しかしガッシュは大きく首を横に振り、清麿の言葉を聞き入れようとしない。
両腕を胸のすぐ横で折り曲げ、小さくガッツポーズを作った。
「今日は私が清麿の看病をするのだ!」
「いや、いい」
「ヌア!?」
ガッシュの申し出を1秒も間を空けずに断る清麿。
ガッシュは不服そうに清麿を睨み付けた。
「遠慮する事はないのだぞ!?私がしっっかり、清麿を看病…」
「いらない」
「ヌアアァア〜!!何故なのだぁ!!!?」
「ガッシュにまともな看病が出来るとは思えないから。以上。おやすみ」
サクサクと意見を述べた清麿は、さっさとガッシュに背を向けて寝てしまう。
この子供に長々とした説得など無意味だと、清麿にはよく判っていたのだ。
有無を言わせずに拒否し、無視を通す事で諦めて部屋から出て行ってくれるのを待つのが最善だろうと判断し、布団を頭まで被るとガッシュが出て行くのを待った。
しかし、いくら待てどもガッシュが部屋を出て行く気配がしない。
諦めが悪いな、と、ガッシュに聞こえない程度に息を吐くと、少しだけ布団から顔を出して薄目でガッシュを見遣った。
直後、額の上に乗せてあったタオルを取られる。
「な…!?ガッシュ!!」
「わ・た・し・が!看病してやるのだ!!」
「いいっつってんだろ!うつったらどうすんだよっ、ウマゴンと大人しく公園へ行ってこい!!」
「嫌なのだ!!」
「ガッシュ!!」
食い下がるガッシュに、こうなったら力付くで追い出してやろうと清麿はベッドから出てガッシュの襟元を掴み上げた。
それが悪かった。
高熱を発している体は急激な動きに付いて行けず、清麿はガッシュを持ったままその場にへたり込んでしまった。
見兼ねたように、ガッシュは清麿を持ち上げるとベッドへと戻してやる。
「清麿、病人なのだから大人しくしているのだぞ!」
「やかましい…さっさっとタオル返して部屋から出て行け」
「しつこいぞ、清麿。看病してやると言っておろう?」
「てめぇ、ガッシュ…」
清麿の言う事など全く耳を貸さず、ガッシュは自作の歌を歌いながらタオルを洗面器の氷水に浸してジャブジャブと泳がせ始めた。
フローリングの床はあっという間に水浸しになり、清麿は後で雑巾を取ってこなければ、と、先の事を考えて重たい溜息を吐く。
「清麿!これで熱を下げるのだ!!」
「っつめて!ガッシュ!!もっとちゃんと絞れ!!」
「ヌ…」
額の上に戻ってきた全く絞れていないビショビショのタオルをガッシュに投げ返す。
これで看病が出来ないと察して諦めてくれるのが一番なのだが、しかしこれしきの事でめげるような子供ではない。
「汗を拭いてやるのだ!」
「いって…!いててて!力加減考えろっ、バカ!!」
「着替えさせてあげるのだ!」
「ボタンを引き千切るなーーーっ!!!」
「お昼ゴハンを食べさせてあげるぞ!」
「ガッシュ、鍋運ぶんなら気を付け…!!」
尽く注意をし、結局、華が作っておいたお昼用のお粥が入った鍋を引っ繰り返したのを最後に、ガッシュの看病は終わってくれた。
ベッドの脇に反省の意味を込めて正座するガッシュを、すっかり熱を上げられた清麿が無言で睨み付ける。
「…ガッシュ…」
「ヌ…」
「これでわかっただろ?お前にはまだ看病なんて無理なんだよ」
「ウヌ…」
「もういいから、外に遊びに行ってこい。あと数時間もしたらお袋も帰ってくるし」
「ヌゥ…」
流石にもう反論をしてくる気配はない。
ほっと安堵の息を漏らすと、清麿は布団に潜って寝てしまった。40度近くなった熱に、もう意識を保ちガッシュに注意を向けている事が限界だったのだ。
数分もしない内に規則正しい呼吸をし出した清麿に、ガッシュはそっと覗き込み寝ている事を確認する。
子供の体というものは不便で、短い手足では精一杯伸ばさないとベッドに寝ている清麿の顔を窺う事は出来ない。
思わず布団の端を掴み引っ張ってしまっても、深い眠りに落ちた清麿が起きて咎める事はなかった。
「私は…役立たずだのう…」
清麿が風邪に負けてしまう程疲れていたのは、連日の魔物の戦いが原因だという事を、幼いガッシュの頭でも判った。
自分の存在が原因で体調を崩してしまったというのなら、せめて看病をしてやりたかったのだが、しかし完璧な看病を出来るまでに頭と体は成長していない。
元気になってほしいという願いとは裏腹に、更に疲れさせてしまった事が申し訳なくて、大切なパートナーに何もしてやれない自分が情けない。
浮かぶ涙を乱暴に拭ったガッシュは、ベッドに体を預けて座り込んだ。
清麿は風邪がうつるからと言っていたが、風邪がうつったって構わない。
少々苦しい思いをする事になったって、清麿の傍を離れたくは無かった。
自分が居ない間に、もしも清麿に何かあったらどうしよう。
熱が今よりも上がって、とんでもない事になってしまうかもしれない。
清麿に言えば、きっと彼は「考えすぎだ」と笑うだろうけれど、それでもガッシュは消えてくれない不安に清麿の傍を離れる事が出来なかった。
小さな膝を抱え、大きな双眸を閉じる。
先程とは一転して静かになった部屋は、清麿の呼吸がよく聞こえた。
時折少し苦しそうに喘ぐ息に、それでも傍に居て、彼が今確かに生きているのだと、ガッシュは鼻を小さく啜ると膝に顔を埋めた。
全ての感覚で、清麿の音を聞く。
そうする事で、心に巣食う不安は僅かながら取り除くことが出来た。
午前中は太陽の光が入ってくる事で充分に明るかった部屋も、今では蛍光灯の光を必要とする程薄暗い。
窓から差し込む橙色の光に、清麿は夕方になったのだと漠然と感じると、まだ怠さの残る体を上半身だけ起こした。
つい数分前まで落としていた意識は、まだしっかりと戻ってはくれていなく、夢の世界を半分引き摺ったままぼうっと部屋の中を見た。
いつも通り何の変哲も無い自室は、妙に静かに感じられた。
何故こんなにも静か過ぎるように感じてしまうのだろうか、と、考えを巡らし、すぐに答に行き着く。
「…ガッシュ」
寝る直前まで居た、恐らく寝ても暫くは居ただろう、あの騒々しい子供の姿が見えない。
諦めて遊びに行ったのだろうか。
呆然とそんな事を考えながら、不意に感じた喉の渇きに、清麿は水を飲みに行く為にベッドから出ようとした。
しかし、床に付く前に足は空中で止まった。
ベッドの陰に小さな塊を見付け、吃驚して凝視すれば、見慣れた金髪と黒いマントに呆れ果てた溜息が漏れてしまう。
「あれほど、部屋から出て行けって言ったのに…」
清麿が起きるのを待っていたのだろうか。
待ち疲れたらしい子供は、スヤスヤと静かな寝息を立てて寝ていた。
本当に、ガッシュは頑として言う事を聞こうとしない。
どうしようもない我侭で、自分の考えや想いをとことん貫き通そうとする。
こっちの言い分なんてお構いなしだ。
清麿は眠るガッシュを睨み付けるが、しかしすぐに表情は緩み、自然と笑みが零れていた。
ガッシュの我侭を時々嬉しいとも思ってしまう自分も、どうしようもないな、と、1人ごちる。
暫く寝ているガッシュを眺めた後、当初の目的通り水を飲みに行こうとドアへと歩み寄った。
清麿がドアノブに手をかけ、開けようとした正にその時、ドアノブは清麿の意思を無視して回り、勢いよくドアは開かれた。
避ける暇など無く、清麿は顔面を強かにドアに打ち付けてしまう。
あまりの痛みに悶絶していると、聞き慣れた声が頭上から降ってきた。
「やだ、高嶺くん大丈夫?」
「何やってんだよ、高嶺!トロくせーなぁ!」
「原因はドアを勢いよく開けた山中くんにあると僕は思うんだけどね」
「見舞いに来てやったぞ、高嶺」
学校帰りに来てくれたらしく、其処には馴染みの級友達の姿があった。
電気が点けられ、明るくなった部屋にそれぞれの顔がしっかりと確認出来る。
「水野…山中、岩島、金山!?」
まさか見舞いに来てくれるとは思っていなかった為、清麿は間の抜けた声を上げてしまう。
鈴芽は果物が少量詰まった籠を床に置くと、清麿を助け起こした。
その際、清麿の視界には、籠の中に入った果物に尽く奇妙な顔が描かれているのが映った。
(ああ、またコイツは…)
鈴芽が果物に顔を描くなどいつもの事なので、流石の清麿もそれに関してはわざわざ突っ込むような事はしない。
「ごめんね高嶺くん。呼んでも誰も出てこないし、鍵開いてたから、たぶんオバさんは仕事で高嶺くんは起きられないんじゃないかと思って勝手に上がっちゃった。大丈夫?熱だいぶ高いんじゃない?体、すごく熱いよ?」
「え?あ、あぁ…でも一眠りしたし」
一眠りしたところで熱が高い事に変わりはないのだが、鈴芽があまりにも心配そうにするので、咄嗟にそんな事を言ってしまった。言った直後、自分でもおかしな事を言っているなと気付き、視線を泳がせる。
心配する鈴芽に苦笑いを返していると、眼前に何やら可愛らしいヌイグルミを突きつけられた。
「…金山?」
「見舞いの品だ、受け取れ」
「いらん」
「何!?」
何の迷いもなくスッパリと拒絶され、金山はヌイグルミを持ったまま床に撃沈してしまう。
よく見ると金山の持っているヌイグルミは彼が求めて止まないツチノコを模した物だった。
(自分の趣味で選んできたなコイツ。それにしてもファンシーな…)
清麿が金山の趣味を意味もなくツラツラと考えていると、今度は山中と岩島が同時に清麿にそれぞれの見舞い品を差し出した。
「俺の消える魔球が完成した有り難いボールだ!」
「いらん。つか、あの消える魔球はガッシュの仕業だ」
「何!?」
「ふふん。僕のは金山くんや山中くんのとはワケが違うよ」
「…岩島、それ…」
「UFOの生写真さ!一昨日の夜、撮れたのさ!ネガはあるから、特別に高嶺くんにも写真を上げるよ!」
「…衛星だな」
「何だって!?」
突っ込みは清麿の性分。
気が付けば清麿を囲むように中2男子が3人、床に涙の水溜りを作りながら撃沈していた。
この事態はやはり自分が悪いのだろうか、と、清麿は始末に困りその場に立ち尽くしてしまう。
すると、パジャマのズボンを後ろから軽く引っ張られ、清麿は吃驚して振り返った。
瞬間、視界には何も無くて疑問に思うが、すぐに下を見て、眠たそうに目を擦っているガッシュを見付ける。
「悪い、ガッシュ。起こしたか…」
「…む…ヌゥ…きよまろ〜…」
まだ半分夢の中なのだろうか、ガッシュは拙い手付きでしきりに目を擦っている。
すぐに伸びてきた小さな両手に、清麿は抱っこしてほしいのだろうか、と、自分も手を伸ばしてガッシュの体を持とうとした。
しかし、ガッシュは清麿の手を捕えると、ベッドへと無理矢理引っ張る。
「寝てなければダメではないか」
「あ…でも、オレ水が飲みたくて…」
「それぐらい、私が用意して持ってきてあげるのだ。清麿は大人しく寝ているのだ」
まだ開ききらない目を瞬かせながら、清麿をベッドへと連れて行き、布団の中に押し込めた。
清麿に水を持ってきてやるために、ガッシュはもう一度両目を強く擦り、強制的に意識を戻す。
大きなクリクリとした双眸を2,3度パチパチと瞬かせ、ドアを向き直り、そこでやっと鈴芽達の存在に気付いた。
「おお!鈴芽たち、来ておったのか!!」
「うん、ついさっきね。ガッシュくんは高嶺くんの看病?エライのね」
「ウヌ!」
「よく言う…」
鈴芽に褒められ、誇らしげに胸を張るガッシュに、清麿は聞こえない程度に嫌味を吐いた。
ガッシュの朝からの失敗の数々は、とてもじゃないが褒められたものではない。
眠る前はあんなに凹んでいたくせに、一眠りしてしまえば立ち直ってしまうのか、と、妙に感心した。
とにかく、もう夕方だから母親ももうすぐ仕事から帰ってくるだろうし、ガッシュよりもずっと大人なはずの級友達が一緒に居れば、ガッシュがこれ以上失敗する事はないだろう。
第一、たかがコップ一杯の水をキッチンから持ってくるだけの事だ。流石のガッシュもこれは失敗なんてしないだろう。
やっと落ち着いて寝ていられるな、と、清麿はほっと安堵の息を漏らした。
鈴芽達がベッドのすぐ横まで様子を見に来たので、清麿はガッシュが水を持ってきてくれるまで鈴芽達と話でもしていようかと寝たまま顔だけを鈴芽達へと向ける。
すると水を取りに行くはずのガッシュまでもが来て、清麿と鈴芽達の間に立つと、ニッと無邪気に笑んだ。
ガッシュの考えている事が読めずに、清麿は疑問符を浮かべて小首を傾げる。
一体、どういうつもりなのだろうか。
水を取りに行くと言っていたのは、ガッシュ自身のはずなのに、何故すぐに水を取りに行かないのだろう。
何かあって取りに行かないにしては、この笑顔の意味が判らない。
鈴芽達を見ても、やはり彼女らも判らないのか、皆一様に首を傾げていた。
「大人しく寝ているのだぞ、清麿」
ガッシュの声がしたと思ったらマットレスが僅かに沈み、清麿の思考は止まる。
ガッシュがベッドに乗ったのだと気付いた直後には、焦点が合わないほど近くにガッシュの顔があった。
何か柔らかいものを唇に押し付けられ、全く予期していなかった事に瞬きすら忘れてしまう。
それがガッシュの唇だと判断出来た直後、清麿の顔は瞬時に真っ赤に染まった。
「…っわあぁあああ!!!??」
「ヌゥオ!?」
素っ頓狂な悲鳴を上げながら、清麿はガッシュをベッドの下へと突き落とす。
唇を押さえ、何が起こったのか頭の中で整理しようとするが、憎らしい事に普段はよく働いてくれる恵まれた頭脳は、こういう事には全くと言っていいほど働いてくれなかった。
落ちた拍子に打ち付けた後頭部を抑えながら、涙目で睨んでくるガッシュを、清麿も涙目で睨み返す。
鈴芽達はといえば、やはり清麿同様何が起こったのかまだ判断出来ていないらしく、目を見開いたまま固まっていた。
「ヌゥ…清麿、痛いではないか!」
「ぃやかましい!!!何しやがんだっ、このクソガッシュ!!!」
「何を言うか!子供が寝る前には“おやすみのチュー”をするものなのだ!」
「だからって何でオレがお前にされなきゃなんねーんだよ!!!大体、オレはまだ寝るつもりはなかったんだよ!!!」
「「「「わぁあああ!!!」」」」
「ぅおぅ!?」
清麿とガッシュが口論をしていると、固まっていたはずの4人が突然叫び出し、今度は清麿とガッシュが吃驚して固まってしまう。
「ぃいいいぃいま今、高嶺くんとガッシュくんチューしたよね!?したよねっ!!?」
「ガッシュ!ずりぃぞテメェ!!」
「そうだよガッシュくん!抜け駆けはダメだよ!!」
「いくらガキだからって許せネェぜ!」
それぞれの言葉を一度に判断し切れなかった清麿は、頭の中で反芻してみて、再度顔を真っ赤にした。
「ななな何言ってんだっ、テメェら!!!」
「ガッシュくん!こうなったら私ともチューして!!少し分けて!!」
「水野、落ち着け!お前自分が何言ってるのかわかってるか!?」
「ガッシュ!俺にも頼む!」
「ガッシュくん、僕にも!」
「一番は俺だぞ、ガッシュ!」
「山中、岩島、金山!お前らもホント何言ってやがんだ!!?」
「「「「ガッシュ!!!」」」」
「ウ…ウヌ…」
「ガッシュ、いい!言う事聞くな、無視しろ!!」
両手を握り締め、バカな事を喚き続ける4人を睨み返したガッシュに、切なる願いが届いたのかと清麿は僅かにほっとするが、しかし次の瞬間それは見事に打ち砕かれた。
「清麿は私のものだ!!!絶対にダメだのだ!!!!」
「ぐぁあっっしゅ!!!何言ってやがんだテメェ!!!!!」
いくら清麿が否定しようが、鈴芽達はガッシュの言葉の方を聞いてしまう。
再び床に撃沈する山中、岩島、金山に、身を捩り本当に人間かと疑わしく思えてしまう動きをしながら奇声のようなものを上げる鈴芽。
各々の反応から友達以上の好意を持たれていると気付いてもいいものだが、しかし清麿は元からの天然さからか、パニックに陥ってそんな事に気を回している余裕が無いからなのか、4人の気持ちに気付く事はない。
「ちがう!!ガッシュの言うことなんか信じるな!!!」
「高嶺くん〜!!本当なの!?本当なの〜!!!?」
「ちがうっつってんだろがぁ!!!!」
「オロロロロロオォ〜〜!!」
「人の話を聞けェっ水野!!つか、それドコの言葉だよ!!?」
「大好きな者には“アイサツのチュー”をするものだとフォルゴレが言っておったぞ?だから私が清麿にしても別に悪いことではないのだ!」
「出所はフォルゴレか!!お前もう黙ってろガッシュ!!!」
何を言っても、もはやこの状況に収拾は付けられないだろう。
「「「「高嶺〜!!!」」」」
清麿は喚き続けるクラスメート達を睨み付け、ついでにこの惨事の原因となったガッシュも引っ掴み、ビッとドアを指差した。
「てめぇら全員出てけェーーーーーーっっ!!!!!」
病人には過酷な事態から数分。
やっと静かになった部屋で、清麿は盛大な溜息を吐いた。
狭い自室を見渡し、床に転がる、到底見舞い品には相応しいとは言えない物達を薄目で見遣る。
静養して早く風邪を治したかった清麿からしてみれば、今日の彼らの見舞いは大迷惑だった。
本当に彼らに見舞う気持ちはあったのだろうかと、疑いたくもなる。
それなのに。
迷惑だったはずなのに、清麿の心は穏やかだった。
床に散らばる奇妙な見舞い品を拾い集め、一箇所に置く。
自然と小さな笑い声が漏れていた。
素直な気持ちを言ってしまえば、嬉しくて、楽しかったのだ。
ほんの1年前までは、風邪を引いても見舞いに来てくれる者なんて1人も居なかった。それどころか、堂々と学校を休む口実が出来たと安心すらしていた。
母親が仕事に行ってしまえば、家には1人きりになってしまう。
学校をサボってばかりいたあの頃は、1人で家に居る事など慣れていたけれど、それでもやはり病気の時は心細くもあった。
たった1年で、こんなにも状況は変わるものなのだろうか。
誰かに傍に居てもらいたいと望んでも、誰も居なかった1年前。
傍に居る者の多さに、大人しく寝ている事さえ出来ない今。
こんなにも違う。
あんな幼い子供に、いつだって、その小さな体にある力には参るばかりだ。
気が付けば周囲を引き付ける金色の光。
それはまた、清麿自身も例外ではなく。
ガッシュが叫んだ言葉を反芻し、清麿はぷっと吹き出して笑った。
大好きな者へと向けられた“アイサツのチュー”。
皆の手前、パニックになってしまったが、別に後を引くほど嫌だとは思っていない。
寧ろ“大好きな”と言われた事が嬉しかった。
あの時は否定したけれど
『清麿は私のものだ!!!』
その独占欲も悪くは無いと思ってしまっている自分も相当だと思った。
***
同日夜、高嶺家には救急車が走り、大人しく寝ていれば治るはずだった風邪をとことん拗らせた清麿が救急病院へと運ばれて行った。
そして、その横にはしっかりと、大泣きしながら着いて行く子供の姿があったのだった。
ガッシュに出逢った事で変わった状況に喜ぶ清麿さんを書きたかったのですが、力量不足により伝わってくれているでしょうか…orz
リクエストをして下さった奈央様、こんなものでよろしいのでしょうか??;;
やはり生ぬるいでしょうか?;でも、いっぱいいっぱいです!!!(超力量不足)
がんばりました!がんばったんですよぉ!!!!(><)
中途半端にギャシリ(ギャグ&シリアス)でアレなカンジですが、がんばったんですってば!!(T□T);;
10000を踏んで下さった敬愛なる奈央様に捧げます。
(ほんとスミマセンこんなんで…orz)